医療法人理事/監事の義務の例と損害賠償責任を負う具体的事例
医療法人理事/監事の義務と損害賠償責任を負う具体的事例
◆その他よくある質問
Q 医療法人の役員が負う、善管注意義務と忠実義務って具体的にはどんな義務?
法人とその理事、監事、会計監査人及び(財団法人の)評議員は、委任の関係にあります。(64条、172 条1項) 民法の規定(644条)により、委任を受けた者(受任者=理事・監事・会計監査人・評議員)は、「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務」(=善管注意義務)を負っています。
具体例としては、以下のようなものがあげられます。
1 従業員が横領行為をしないように、事前に適切な規定や措置を設置し、監視体制を敷いておく義務
2 他の理事が法令・定款・社員総会の決議に違反する行為を行っていることに気が付いた場合には、黙認せず、理事会の中で
3 新規事業にあたり、実現可能で適切な経営計画を十分な調査のもと作成しておく義務
4 融資先の経営状況が悪化しているかどうかといった融資にあたり事前に十分な調査をしたうえで融資の判断をする義務
つまり、理事は業務を遂行するうえで、「通常その地位にある理事に求められるレベルの注意」を払う必要があるということです。こうした法人に損害を与えないように、理事が注意して業務を遂行する義務を、善管注意義務といいます。
なお、役員は、常勤・非常勤、報酬の有無にかかわらず、その職責に応じた注意義務をもって職務に当たることが求められます。
Q 役員の善管注意義務違反と忠実義務違反って具体的にはどんな事例があるの?
2 売買契約上のトラブルが発生し、契約の相手先より、不当な取引により損失が発生したとして、監督責任があ る担当理事に対して逸失利益について損害賠償請求が起こされた。
4 長年、法人が取引を続けてきた院内売店業者との契約を、法人側が一方的に解除した。一方的な契約解除 により、院内売店業者が損失を被ったとして損害賠償請求がなされた。
1 財務担当者Aに医療法人Bの資産運用を任せていたが、独断で内部規定に反した不適切な運用を行ったために失敗し、多額の損失がでた。Aの不正を見逃した財務担当理事Cも監視義務を怠ったとして善管注意義務違反として医療法人Bから訴訟提起がされた。
2 介護事業分野に進出するにあたり、医療法人Aは新たに介護老人保健施設とするための物件を探していた。担当理事Bが十分な確認をしなかったため、法令上必要となる床面積を確保できていない物件を購入してしまい、結局、施設を開設できなかった。契約時の確認が不十分だったという点について、Bに善管注意義務違反があったとして医療法人Aから訴訟提起がされた。
3 介護事業に新規参入したが、経営企画がずさんであったため、事業が失敗に終わった。生じた損失分につき、担当理事Aに対して、善管注意義務違反があったとして医療法人Bから訴訟提起がされた。
4 大手医療法人グループAが、グループ傘下の診療所に対し、経営の改善をうながすため、無担保貸し付けおよび債務保証をしたが、見通しが甘く、診療所が倒産した。回収できなかった融資分について、医療法人Aから担当理事Bに対し、善管注意義務違反を理由に訴訟提起がされた。
5 従業員Aが長年横領していたため、医療法人Bに多額の損失が発生した。監視業務が不十分であったとして、経理担当理事Cに対して善管注意義務違反が問われ、損失分についてBから訴訟提起された。
6 クリニックが老朽化し、耐震補強工事の必要性が明らかであるにもかかわらず、理事Aがこれを放置した。数年後、地震が発生してクリニックが倒壊し、医療法人Bは甚大な被害を受けた。適切な耐震補強工事をしなかった点について、善管注意義務違反があるとして、医療法人Bは理事Aに被害額相当の損害賠償請求訴訟を提起した。
7 その他にも、役員Aが医療法人B所有の不動産を、長年にわたり、定価より著しく低い価格で賃借していたことが明らかになったため、善管注意義務違反があるとして、差額分をBから請求された。
同様に、役員Aの医療法人Bに対する債務1500万をBが免除したような場合、役員Aが受取人となるBからの1000万の約束手形の振出した場合、BがAの債務を保証する保証契約を締結した場合といったように、法人の利益を犠牲にして、役員が自らの利益を図ろうとしたようなケースの場合には、役員に対する善管注意義務違反が原則として認められます。
また、役員Aから医療法人Bに対する貸し付けは、一見すると役員の利益にならないように思えますが、高額な利子をつけている場合もあります。その場合には、医療法人の利益を犠牲にして、自ら利益を得ているという状況があるので、善管注意義務違反と認められるでしょう。